ラジ@「サエキけんぞうのお宝音源ご開帳」
ダリエ本人による放送曲解説

放送はすでに終了してますが、解説文を書いてみました〜。
お宝音源・・・なわけですから、ようするに日の目を見ることなく眠っていた音源の数々です。ゆえに幸せな経緯を辿った曲は少ない。作者の私からも長いあいだ見向きもされなかった曲がほとんどです。でも改めて聴いてみると、意外なことになんとも無邪気で、その時代の光や影の部分をたくさん吸い込んだ感じが伝わってくる。
ムショーに嬉しくなってしまった自分に、ちょっとばかし照れているワタクシです。

◇2月28日の週放送

1. ヒマワリ  作詞・作曲:Darie 編曲:鈴木博文,Darie
1986年の夏、某レコード会社のディレクターから「君にぴったりのプロデューサーを紹介しましょう。まずはその人のもとでデモテープをつくりなさい」と言われて、なんだかよくわからんがそのディレクター立ち会いのもと、ほぼ強制的に将来の伴侶に会う事になったのでした。「ヒマワリ」は、そうして出会った鈴木博文の自宅スタジオ(=湾岸スタジオ)で、最初に録音したデモテープです。鈴木博文という人はムーンライダーズという日本最古のロックバンドでベースを弾いているのですが、実は私はそれまで、ムーンライダーズがどのような人達なのか、あまりよく知らなかった。失礼ながらアルバムを聴いたことも無かったし、ちょっとだけ聴きかじって知ってる曲は唯一「いとこ同士」だけという恐ろしい状況。一言ことわっておきますが、当時の私はライダーズだけに明るくなかったわけではなく、音楽シーン全般 についてホントに知識が足りていなかったのです。これから音楽の世界でやっていこう!みたいな人としてはもはや非常識の域と言ってもよいくらいです。なんでこんなに音楽事情に疎い小娘がいきなり湾岸スタジオに送り込まれる事になったのか・・・某ディレクターを介したこの人間関係が私のその後を大きく左右することになろうとは。 実はムーンライダーズという人達は、業界では「アルバム一枚作るのにとにかく膨大な時間とお金がかかるバンド」で有名だったらしいのですね、当時。そんなわけなので、まず、超のんびりした録音ペースに正直かなり驚いた・・・。録音するのは自分の曲だし、私なりにアイディアもあったので、完全お任せモードに浸ることなくどんどん私自身でキーボードを弾いて進めていったのですが、例えば私が小手先の常套テクニックなどに走りそうになると、がーりがーりとコーヒー豆を曳きながら「そーゆーのはあまり面 白くないからやめましょう」と茶々を入れるのが博文氏の役目でした(そう、この曲には当時鈴木家で大活躍していた鉄製のコーヒーミルを回す音をサンプリングして入れたりもしたのです)。どうかすると、コーヒーを3杯程飲みながら談笑し博文氏のお母さんの手料理を御馳走になって湾岸スタジオ所蔵のアナログ盤などを何枚か聴かせていただくうちに終電の時間近くになってしまい、「ではまた来週参ります」とか何とか言いながら、作業らしい作業は何もせずにおいとました事もあったような・・・。あまりののんびりさ加減に、最初は「???」と感じる事も多かったけれど、あえて良く考えるならば、音楽家の先輩として「色んな角度から色んな事を踏まえたうえで、よーくよーく考えて作りましょう」と教え諭してくれていたのでしょう。「音楽人として誠実であれ」みたいな事だったかもしれない。その後いろいろありましたが、最初のデモテープ録音から3年後、ようやくファーストアルバムをリリースすることが出来たのでした。 「手際良くアレンジメントを施してくれる親切な敏腕プロデューサー」みたいな人が世の中にいるとすれば、博文氏はそれとはまったくの対称に位 置していて、アーティストのキャパシティを広げてあげる教育係という感じ。早い話しがあまり具体的には何もしてくれないプロデューサーなんだけど、当時の私みたいな育ち盛りのクリエイターには確かに「ぴったり」だったかも知れないですね。ゆくゆくは音楽的に一人立ちできる方向に導いてくれたのですから。あの時、別 のプロデューサーを紹介されていたら、アルバムデビューはもっともっと早かったかも知れないけれど、現在の私は今とまったく違うタイプの音楽家になっていたのかも・・・。あるいは音楽とは別 の分野に行っちゃってたかも・・・。それもまた良しなんだけど、出会いって、恐るべし。

2. 化石の森  作詞・作曲:Darie 編曲:鈴木博文,Darie
前述の「ヒマワリ」を録り終え、湾岸スタジオ式デモテープ作成メソッドにもそろそろ慣れて来た頃。もう1曲やってみるか、という事で傾向の違うタイプの曲を録ったのが、コレです。 ハイトーンボイスやドスのきいた合の手によってみっしりと壁のように組み立てられたコーラスと、やけに落ち着いて悟ったようなメインヴォーカル。自宅でひとりで作っていたラフテープからすでにこの状態なので、アレンジ前と後の印象はそれほど違いませんが、電気掃除機の音をサンプリングして使ったり、「あれやってみよー」「これはどうだー」みたいなことは色々試してます。 この曲を録っていた頃、湾岸スタジオに出入りする他のミュージシャン達やエンジニアとぽつぽつ知り合いになります。

3. 十六夜  作詞・作曲・編曲:Darie
大学生の時に住んでいたマンションには、ヤマハCP-80という懐かしのエレピがありました。国立という土地柄、音大生が住んでもOKというマンションだったのでグランドピアノを持ち込んでも良かったんですが、数人で移動も可能なエレピはやっぱり重宝するという理由で、大学2年の時知り合いから中古で購入したのでした。重めの鍵盤が好きな私好みの弾き心地。音の方は、昨今のデジタルピアノやサンプリングによるピアノ音源には遠く及びませんが、独特の、CP固有の音色でした。このピアノと声の多重録音のみで作った自宅デモテープというのが84年から88年あたりで多数作られてまして、「十六夜」はその中の一つです。シーケンサーなど何も用いず、単純にマルチテープレコーダーの録音ボタンを自分で押して、ドクタービートのガイドクリックを聴きながらピアノを弾く、重ねる、という作業なので、最初から最後までノーミスで弾き続けなければならず、失敗するとまた最初からやり直し・・・という極めてローテクな手法により作られておったわけです。

◇3月7日の週放送

1. 恋人達のように  作詞・作曲:Darie 編曲:安部隆雄,Darie
当然ですが、今となっては立派に活躍している音楽家にも、アマチュア時代があるのです。当時ばりばり(?)のアマチュアだった私のまわりにも、やはり似たような境遇のアマチュア音楽家がたくさんいました。同じような目標を持ち、同じようなジレンマを抱え、日々研鑽に明け暮れる。それぞれがお互いに良き批評家だったし、まだ世に出てはいないけれど才能や活力が渦巻いていたような、不思議な温度を共有していた80年代も後半。その時すでに音楽シーンでアレンジャーとして活躍していた安部隆雄氏と、いっちょ何か作ってみようではないか!と盛り上がって、何曲かデモテープを作ってみたのでした。88年のことです。 例によって曲はすでに出来上がっていましたが、それをいかに魅力的に仕立てていくか。アレンジ作業のノウハウのようなものを学ぶ良い機会でした。今聴くと、やけに大きいドラムの音色に時代を感じます。

2. 月夜の頃  作詞・作曲:Darie 編曲:安部隆雄,Darie
ラジ@の収録でも触れてますが、87年頃、とある実力派シンガーさんのディレクターさんからアルバム収録曲のプレゼンのお話をいただいて、詞曲セットで作った曲です。この「月夜の頃」を含めて2曲提出しました。しかしながら2曲ともボツに・・・。まだまだ駆け出しの新人作家というのは、実にこういうことがよく起こる。今だったら「ここをもっとこういう風にしませんか」とか「今回はこういうコンセプトなので申し訳ないですが・・・。スイマセン。ぜひ次回に!」なんて相談や申し開きがあった上で、書き直すとか、最悪のパターンで2曲のうちの1曲はボツるとかしながらも、まあまあ良い感じでお仕事関係が続いていくわけです。が、その当時は提出しても1ヶ月くらいノーリアクションで、こちらから問い合わせると「ボツりました」という対応。何曲も頼まれて作業をするわけなのに簡単にボツにされて、おまけに依頼側から連絡もなく作業費も出ない。今にして思えば、ほぼ素人に毛のはえたくらいのミュージシャン(当時の私)への、丁寧な対応や気遣いを求めること自体がすでに理不尽なわけですが。しかし「ワタシをいったい何だと思ってんの?」という当時のウブな怒りは、そののち音楽の世界を生き抜くうえで絶対に不可欠な「根性」を育成するモチベーションにはなりましたね、確実に。こういう経験はしておいて損はないです。駆け出しの頃に変に優遇されて甘ったれた勘違いをしてしまうよりは、とにかく色んなお仕事を受けてみる、プレゼンにも落ちてみる、色々言われてみる、がんばってみる。 自分用に仕立て直し、88年に「恋人達のように」と同時に作った音源ですが、今回こういう形でみなさんのお耳に届いたのは、この曲にとってむしろ良かったかも・・・と10数年ぶりに聴いて思ってみたり。

3. 風のひと(CMバージョン)  作曲・編曲:Darie
歌入りバージョンは、ホーカシャン名義で某コンピレーションアルバム中の一曲として収録されてます。詳しくはDISCOGRAPHY参照。 私がホーカシャンを脱退してそろそろ久しいですが、そのホーカシャンが誕生する少し前の1990年、日興證券の60秒企業CMとして私が作曲した音源です。お友達のピアニカ前田さんをお招きして和気あいあいと録音し、映像の監督さんにも大層気に入っていただき、もう来週あたりからオンエアーという時に、證券不祥事問題が持ち上がり、放送自粛となりました。一寸先は闇・・・なのですね、CMのお仕事を長くしていると、ちょっとした事情でおくら入りとなるケースに、もちろんたまーのことですが遭遇します。 リコーダーは自分で吹いております。この演奏を聴いたCM関係者から、その後リコーダーを吹くお仕事の依頼が結構あって、ちょっとびっくりしたものです。

4. Darie-gardenのテーマ  作曲・編曲:Darie
2000年の春、ファンクラブイベントで「パンを焼く会」を企画した際、参加者のみなさんにお持ち帰りいただくお土産として、この曲が入ったカセットテープをプレゼントしたのでした。 当ホームページ、Darie-gardenのトップページにアクセスしていただくと流れる曲のロングバージョンです。なーんにも考えずに、楽〜に作ったつもりですが、部分部分で結構ホラーな感じがするのは何故に・・・。

【2002.3 Darie】


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